その「鎧」は重すぎる。「元・銀行員」が新天地で愛されるためのアンラーニング戦略

銀行員としてのプライド(鎧)を脱ぎ捨て、一人のプロフェッショナルとして歩み出す40代男性のイメージ。

銀行員という職業は、数ある専門職の中でも極めて特殊な「重力」の中にいます。20年間、その重力の中で鍛え上げられたあなたのスキルは本物ですが、同時にその重力に耐えるために身につけた「銀行員としてのプライド」という鎧は、一歩外の世界に出れば、あなたの軽やかな飛躍を妨げる「重り」へと変わります。

2026年、変化の激しいビジネスシーンにおいて、元・銀行員が「過去の遺物」になるか「変革のリーダー」になるか。その分水嶺は、この重い鎧を脱ぎ捨て、新しい自分を定義し直す「アンラーニング(学習棄却)」ができるかどうかにかかっています。


イントロダクション:なぜ銀行員は転職先で「煙たがられる」のか?

中途採用市場において、銀行員は「地頭が良く、誠実で、数字に強い」という高い期待を持って迎えられます。しかし、入社から3ヶ月後、「期待外れだった」「扱いづらい」というレッテルを貼られてしまうケースが後を絶ちません。その最大の原因は、スキル不足ではなく、無意識に滲み出る「上から目線」と「発注者マインド」にあります。

「債権者の特権」という呪縛

銀行員は長年、企業を「審査する側」、あるいは「資金を提供する側」という、構造上の優位に立ってきました。相手が年上の経営者であっても、実質的には銀行員が「イエスかノーか」を判断する立場にあります。この「自分が評価し、相手が評価される」という力学に20年浸かり続けると、無意識のうちに「自分は常に正解を知っている側である」という傲慢さがアイデンティティの一部に組み込まれてしまいます。

しかし、一歩外に出れば、あなたは「一人のプレイヤー」に過ぎません。特にITベンチャーや事業会社では、顧客やプロダクトが主役であり、あなたはそれを「支える側」になります。この力学の逆転を受け入れられないまま、前職の振る舞いを持ち込むことが、周囲との間に見えない「壁」を作ってしまうのです。


自己診断:あなたを蝕む「銀行員病」の5大症状

元銀行員が陥りやすい「銀行員病」の5つの代表的な症状リスト。

自分では「謙虚にやっているつもり」でも、周囲からはそう見えていないことがあります。以下の症状に心当たりはありませんか?

① 「〇〇銀行の次長代理だった私」という亡霊

自己紹介の際、つい「以前の銀行では〜」「当行の基準では〜」という枕詞を使ってしまう。これは、今の自分に自信がなく、前職の看板を借りて自分を大きく見せようとする防衛本能の表れです。

② 「完璧主義のブレーキ」

銀行業務では1円のミスも許されません。しかし、スピード重視の事業会社では「60点の完成度でまず回す」ことが求められます。周囲が走り出している中で「エビデンスが足りない」「リスク精査が不十分だ」とブレーキをかけ続け、プロジェクトを停滞させていませんか?

③ 「評論家(アドバイザー)気取り」

現場の泥臭い課題に対し、「要するにこういうことですよね」「論理的に言えばこうすべきです」と、自分は手を動かさずに解決策だけを提示する。現場が求めているのは、スマートな助言ではなく、共に汗を流す「仲間」です。

④ 「ITツールへの潜在的拒絶」

SlackやNotion、Miroといった現代のコラボレーションツールに対し、「電話やメールの方が確実だ」と固執したり、若手に操作を丸投げしたりする。これは単なるスキル不足ではなく、「そんな些末なことは私の仕事ではない」という特権意識の裏返しです。

⑤ 「発注者・管理職マインドの残滓」

「これ、やっておいて」という指示が、銀行時代の部下に対するそれと同じトーンになっていませんか?フラットな組織では、指示ではなく「依頼」と「共感」が動機付けの源泉です。


「捨てる技術」:アンラーニング(学習棄却)の具体的ステップ

アンラーニングとは、単に知識を忘れることではありません。今の自分を作っている「当たり前の基準」を一度リセットし、新しい環境に適したOSを再インストールするプロセスです。

ステップ1:言葉をアップデートし、壁を取り払う

言葉は思考を規定します。銀行特有の「閉じた言葉」を捨て、オープンなビジネス用語に変換しましょう。

カテゴリー捨てるべき言葉(銀行用語)再定義する言葉(一般ビジネス)
意思決定稟議、ネゴ、根回し意思決定、合意形成、調整
自社呼称当行、弊行、当行の看板弊社、当社、私たちのチーム
人間関係プロパー、中途、年次生え抜き、メンバー、経験
評価基準格付、与信、属性信頼、実績、ポテンシャル

特に「当行」という言葉は、無意識のうちに自分を「組織の代表者」という高い棚に置いてしまいます。「弊社」あるいは「私たち」という主語に変えるだけで、チームの一員としての自覚が芽生えます。

ステップ2:階級(役職)を捨て、役割(機能)をまとう

銀行は「役職が人を動かす」世界でしたが、外の世界は「能力と信頼が人を動かす」世界です。

  • 「さん」付けの徹底: 20代のインターン生から50代の社長まで、全員を「さん」で呼んでください。そしてあなた自身も「〇〇さん」と呼ばれることを受け入れてください。役職名で呼ばれないことに違和感を覚えるうちは、まだ鎧を脱げていません。
  • 「教えてもらう」勇気: 20代の若手が使いこなすツールや、現場の専門用語について、「不勉強で申し訳ないが、教えてほしい」と頭を下げる。この一言が、周囲の警戒心を解き、あなたをチームに溶け込ませる魔法の言葉になります。

ステップ3:外注マインドを捨て、ハンズオン(実務)へ回帰する

銀行員(特に管理職)は、資料作成や調査を「誰かにやらせる」ことに慣れすぎています。

  • 「自分で手を動かす」ことを誇りにする: パワーポイントの資料を自分で一から作る、Excelでデータを集計する、顧客にアポの電話をかける。これらを「格下の仕事」と捉えるのではなく、「現場感覚を取り戻すための貴重な機会」と定義し直してください。
  • スピードを品質に優先させる: 「100%の完成度を求めて1週間かける」よりも「30%の出来で3時間後に出す」方が喜ばれる世界があることを、身をもって学んでください。

新しいアイデンティティの構築:「所属」から「機能」へ

所属組織に依存するキャリアから、自身の機能とスキルで定義するプロフェッショナルへの転換。

「どこに勤めているか(Affiliation)」で自分を定義する時代は終わりました。2026年のキャリアにおいては、「何ができるか(Function)」こそがあなたの名前になります。

「専門家」としての謙虚な貢献

あなたの持つ財務、法務、リスク管理の知識は、間違いなく転職先の企業にとって「宝の山」です。しかし、その宝を「正論」という鈍器にして振りかざしてはいけません。

  • 「伴走者」としてのスタンス: 「あなたの会社の管理体制はダメだ」と言うのではなく、「このリスクを一緒に管理することで、もっと大きな挑戦ができるようになりますよ」と、相手の目標達成のために自分のスキルを使う。
  • 「銀行員」をスパイスにする: あなたのアイデンティティの核を「銀行員」にするのではなく、新しい役割(例えば営業部長や企画課長)の隠し味として「銀行員時代の知見」を効かせる。これが、新しい環境で愛されるプロフェッショナルの姿です。

ケーススタディ:成功する「元バン」と失敗する「元バン」の分岐点

具体的な事例から、その明暗を分けるポイントを学びましょう。

【失敗例】管理を押し付けた元・融資次長 C氏(48歳)

中堅製造業のCFO候補として転職。入社早々、彼は銀行時代の「格付基準」を社内に持ち込みました。「この取引先は危ない」「この経費は認められない」と厳格な管理を徹底。結果、長年の信頼関係で成り立っていた営業現場は大混乱に陥り、営業部長と衝突。彼は「会社を守るために正論を言っているのに、なぜ理解されないのか」と憤りましたが、周囲からは「会社の成長を止めるブレーキ」と見なされ、1年で退職に追い込まれました。

【成功例】泥臭さに飛び込んだ元・支店営業 D氏(42歳)

SaaSスタートアップの営業マネージャーとして転職。彼は入社初日から「自分はITの素人だ」と宣言し、20代のメンバーにツールの使い方を教わりました。さらに、誰よりも早く出社してオフィスを片付け、若手が嫌がるクレーム対応や契約書の事務処理を率先して引き受けました。

「あの人はプライドがないのか?」と最初は訝しがられましたが、やがて「銀行員ならではの粘り強い交渉力」と「財務面からの顧客提案」が爆発。メンバーは彼の経験を心から頼るようになり、現在はCOOとして組織を牽引しています。

転職先で若手から学び、信頼を築くことに成功している元銀行員の理想的な振る舞い。

まとめ:鎧を脱いだあなたは、もっと軽やかに高く飛べる

銀行員という鎧は、あなたが厳しい環境を生き抜いてきた証であり、勲章です。しかし、勲章をつけたままでは、新しい山には登れません。

本当のプライドとは、過去の役職や年収に固執することではありません。

「どんなに環境が変わっても、自分はゼロから信頼を築き、新しい価値を生み出すことができる」

という揺るぎない「自己信頼」こそが、真のプロフェッショナルのプライドです。

鎧を脱ぎ捨て、身軽になったあなたを待っているのは、前例や規則に縛られない、自由でエキサイティングなビジネスの荒野です。そこで新しい仲間と共に、銀行員時代には見ることのできなかった景色を、ぜひ自分の目で見届けてください。

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